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魔術 芥川龍之介著 [文学]

小学生の頃、本が大好きでした。教科書も学年の初めにもらったら数日で全部読破して覚えてしまい、授業中退屈なので、図書室から持ち出した本を読んでいました。 今はそんなこと決してできませんが、目で本を読みながら、耳で授業を聞いていたので、先生に当てられても100%正解を答えていました。可愛くない小学生だったと思います。

中学生の教科書に芥川龍之介の『トロッコ』が載っていました。 ああいう素朴な作品その頃から好きでした。で、旺文社文庫の芥川龍之介著『南京の基督・山鴫 他九編』を買って読みました。
『南京の基督』は、主人公が15歳の娼婦で直接的な性的描写はありませんが、大人の世界を垣間見ることのできる作品は中学生には十分すぎるほど刺激的でした。 こんな作品と一緒に収められていたのが『魔術』です。どちらも谷崎潤一郎と関わりのある作品とか。

『魔術』は、1920年1月に赤い鳥で発表されたことから判るように、児童向けの文学作品です。 芥川の作品はジャンルが幅広いですから。

インド人の友人マティラム・ミスラに魔術を教えてもらいたいという主人公に対して、魔術を学ぶためには私欲を捨てきらないといけないと諭すマティラム・ミスラ。 そのつもりで教えを乞うた主人公ですが、事前の催眠試験で私欲を露呈してしまい、学ぶ資格がないことを悟ったという筋書きです。

こんな作品が気になったのは、2010年2月に日本文学シネマとしてTBSで30分番組として放送されたから。主演は塚本高史。 私が見たのはテレビ神奈川かMXTVでの再放送。 
http://www.bungo.jp/magic/

日本文学シネマは、太宰治、森鴎外、谷崎潤一郎などの短編小説6作品をテレビドラマ化したもの。向井理や加藤ローサが出演している作品もあります。数多くある芥川龍之介の短編小説から唯一選ばれてテレビドラマ化された『魔術』。 それなりの魅力があります。 読んでいると臨場感が漂ってきますね。 テーブルクロスに描かれた花を取出したり戻したり、本が部屋の中を飛び交ったり。 トランプのキングがカードから飛び出してくるという着想もなかなかです。

冒頭の部分を以下に紹介しましょう。


ある時雨の降る晩のことです。私を乗せた人力車は、何度も大森界隈の険しい坂を上ったり下りたりして、やっと竹藪に囲まれた、小さな西洋館の前に梶棒を下しました。もう鼠色のペンキの剥げかかった、狭苦しい玄関には、車夫の出した提灯の明りで見ると、印度人マティラム・ミスラと日本字で書いた、これだけは新しい、瀬戸物の標札がかかっています。
 マティラム・ミスラ君と云えば、もう皆さんの中にも、御存じの方が少くないかも知れません。ミスラ君は永年印度の独立を計っているカルカッタ生れの愛国者で、同時にまたハッサン・カンという名高い婆羅門の秘法を学んだ、年の若い魔術の大家なのです。私はちょうど一月ばかり以前から、ある友人の紹介でミスラ君と交際していましたが、政治経済の問題などはいろいろ議論したことがあっても、肝腎の魔術を使う時には、まだ一度も居合せたことがありません。そこで今夜は前以て、魔術を使って見せてくれるように、手紙で頼んで置いてから、当時ミスラ君の住んでいた、寂しい大森の町はずれまで、人力車を急がせて来たのです。
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